加齢にともない、若い時よりも食事の質が重要になってきます。

荒木幸子先生のシニア犬猫のための栄養学入門

第9回栄養を底上げするフードへのトッピング

人と同じく犬猫も中年からシニア期にかけて、様々な体調の変化が見られます。個人差はありますが、中年期になると若い頃に比べて活動量が低下し、筋肉量が減ると基礎代謝が低下して太りやすくなります。一方、高齢期に入ると、食べる量も消化吸収能力も落ちてくるため、低栄養や筋肉量低下の心配が出てきます。加齢とともに病気への耐性も低下してきますし、修復しなければいけない体の箇所も増えてきますので、アミノ酸など栄養素の要求量は増えてきますが、加齢によって食事からの栄養吸収率は逆に落ちてきます。

人の食事ではインスタントや加工食品は控えめにと言われますが、ドライフードを常食している犬猫は、加工食品が主食になっていることを理解する必要があります。若い頃には、低品質のドライフードで健康を維持できていた子でも、中年期からは問題が出てくる場合もあります。

人用の加工食品では糖質や脂質の取りすぎが気になりますが、犬猫の食事でもドライフードはウェットフードなどに比べて糖質が多い傾向にあります。普段のフードを高品質なものに見直しすることは有効ですが、家庭で簡単に食事の質を上げる方法として、フードへのトッピングがあります。免疫力を維持しつつ、神経伝達物質やホルモン分泌をこれまで通り維持するためには、十分な各種アミノ酸とビタミン・ミネラル類が欠かせません。低栄養にならないように、普段の食事に消化吸収のよい良質なタンパク源をプラスする、抗酸化物質の豊富な野菜や果物などの食材をトッピングする工夫は、簡単で効果的な方法です。

完全手作り食となると、栄養バランスの面からも一気にハードルが高くなりますが、トッピングであれば家庭でも気軽に取り入れやすいでしょう。完全栄養食フードを与えている場合、トッピングは食事全体の2割を超えない範囲であれば栄養的に問題となることはほぼありません。今回は、各種アミノ酸を底上げするために良質なタンパク質源となるトッピング例をご紹介します(左のコラム参照)。

このような手軽な食材で簡単にトッピングができますが、同じものは続けて長期間与えないように工夫してください。肉類はササミなどの筋肉部位と心臓などの内臓肉では含まれるアミノ酸の割合が異なりますし、鶏と牛など動物の種類でも組成が異なります。また、魚類と肉類では含まれる脂肪酸の組成も異なります。魚に含まれるオメガ3系脂肪酸やビタミンDは、シニアにとって特に嬉しい栄養素です。様々な食材をローテーションすることで、各種アミノ酸や脂肪酸の恩恵をまんべんなく受けることができます。また、魚缶(水煮)は、他の肉類とローテーションする限りは塩分過剰にはなりにくいですが、続けて長期間これだけを与えると塩分が多めになる場合があります。

以上の点に気をつけながら、気軽に楽しいトッピングを楽しんでいただきたいです。

荒木 幸子(あらき ゆきこ)

  • 早稲田大学 商学部卒業
  • NY州立大学 獣医サイエンス学科卒業
  • 米国NY州 Licensed Veterinary Technician免許登録

外資系ヘルスケア会社に在職中、心臓循環器疾患の治療現場に関わった経験から、現代医学の対処的療法に疑問を感じ、根本治療と予防医療の大切さを痛感するに至る。父や愛犬の健康問題をきっかけに予防医学と食事・生活改善の研究を始め、栄養学、自然医療など健康に対する統合的なアプローチの大切さに目覚める。

生命を、「病気を抱える臓器や部分の集合体」として見るのではなく、「全体的(ホリスティック)な健康体」としてとらえるアプローチの大切さと、情報過多の時代において私たち一人一人が自分で健康を管理し、自身の健康に責任がもてる教育・情報共有の重要性を感じて活動をしています。

タンパク質増強のためのトッピングの例
(食事全体の2割を超えない)

  • 肉類(鳥ササミ、鳥モモ肉、鳥ムネ肉、豚コマ肉、牛肉など)*1
  • 内臓肉類(心臓、レバー、砂肝など)*1
  • 魚(加熱したサンマ、イワシ、ブリ、シャケなど)
  • 魚の缶詰(イワシ水煮缶、サンマ水煮缶、シャケ・マス水煮缶など)*2

*1 少量の水で茹でる。茹で汁も与えると尚よい
*2 腎臓疾患以外では骨ごと与えてよい

[トッピングの利点]

  • シニアが消化吸収しやすい良質なタンパク質を底上げできる 
  • 加工食品に不足しがちな自然なビタミンやミネラルを追加できる
  • 高齢になり食欲が落ちてきた場合の食欲増進が期待できる

第8回熱中症の季節の水分代謝 (効果的な水分補給)

日差しが強くなり、気温がぐんと上昇する季節です。体内の水分保持量が減ってきており、気温の変化に体がついていくスピードもゆっくりなシニアは熱中症のリスクも高いので、効率よく水分を補給し、クールダウンする食材も取り入れて水分代謝を良好にしたいですね。

効果的な水分補給

ドライフードを主食としているペットでは慢性的な無症状の脱水症状が気になりますが、シニアではこの傾向が強くなります。普段から水分補給を心がけ、体調を良好に維持することで熱中症も予防したいところです。できるだけ経口摂取するのが自然ですし、人では1日に摂取する水分の約半分を食事からとっているといわれます。これが体にとっては自然で吸収しやすい形です。シニアの食事も、できるだけ水分を含んだウェットフードや栄養バランスのとれた手作り食を取り入れたいものです。

食事以外でオススメの水分補給

食事以外では、家庭ではお水(水道水や浄水)を与える方法が一般的ですが、シニアは体の渇きを感じにくくなりますし、吸収・保持能力も衰えてくるので、水だけを飲んでもなかなか吸収されず、体内でも代謝・保持されにくいといった悩みがあります。ただの水よりも、アミノ酸や電解質を含む水分のほうが体に馴染みやすく利用しやすい傾向があります。ペット用の経口補水液を利用するのも方法ですが、今日は家庭で日常的にできる方法をご紹介します。

  • 以前ご紹介した骨スープに、自然塩を少量加えて与える(ない時は肉のゆで汁でもよい)
  • 野菜のゆで汁に自然塩を少量加えて与える(柔らかくなった野菜も与えて良い)
  • 自然塩はナトリウムの他にマグネシウムなどの微量ミネラルも含みます。200mlに指2本ひとつまみ程度を目安として、与える量によって加減を
  • 骨スープにはアミノ酸類が、野菜のゆで汁にはミネラル類(特にカリウム)が含まれ、これに自然塩(ナトリウムなど)を加えることで吸収力がアップ
  • 野菜はアク(シュウ酸)が多いホウレンソウなどは避けたほうが安心

暑い季節にオススメ、夏野菜のおやつ

野菜のゆで汁がない場合でも、お水に自然塩を少量加えたものと、野菜(キュウリ、トマト、ダイコン、セロリなど)をおやつに与えることで、同じ効果が期待できます。夏野菜は体の熱をクールダウンすると言われますので、暑い季節の水分代謝にはオススメです。かじって食感を楽しむ子も多いですが、野菜の消化が不得意な子もいますので、薄くスライスするかみじん切りにするなど、工夫して与えましょう。


上手に水分を補給し、熱中症も予防して暑い季節を乗り切りましょう。

まとめ

  • シニアの熱中症の予防には、効果的な水分補給や水分代謝が不可欠
  • 食事に自然に含まれる水分として摂取するのが理想的
  • ただの水よりも、アミノ酸や電解質を含む水分のほうが吸収・体内利用しやすい。
  • 野菜のカリウム、自然塩のナトリウムなどのミネラル分を利用して効果的な水分補給を
  • 体をクールダウンする夏野菜を上手に取り入れる

第7回シニアをサポートする栄養素と食材①タンパク質(その2)

前回は、シニアに必要なタンパク質の「量と質」を底上げしてサポートするために、食事に動物性タンパク質をトッピングすることをおすすめしましたが、与えることのできる食材はバラエティーに富んでいます。必ずしもペットのために特別に用意しなければならない食材ではなく、人の食事に併せて手軽に用意できるものがほとんどで、味付けする前であれば人の食事と同時に用意して動物用に分け与えることができます。例えば、夕食時の肉や魚をペット用に取り分けておいたり、朝食を用意する際にスクランブルエッグを余分に作ったり、卵を家族の分プラス1個多く茹でる、夕食の刺身を一切れシェアするなど、日常生活のついでに手軽に行える方法がオススメです。

肉や魚などは、フライパンや鍋に少量の水を加えて軽く蒸し煮にする調理方法がオススメです。栄養素は汁にも流れてしまいますので、汁ごと与えると水分も栄養素も余すことなく摂取できます。タンパク質は高温になればなるほど変性が進み、加えて発ガン性物質も生産される傾向にあります。揚げ物は非常に高温での調理になり、揚げ油の酸化も気になるので避けたい調理法の一つです。

以前ご紹介した『骨スープ』を毎日の食事に加えることも効果的です。スープに溶け出した各種アミノ酸は消化吸収されやすく、関節の保護や抗炎症作用に加えて整腸作用も期待できるので高齢犬の健康維持には重宝する食材です。骨からほろりと外れた肉や関節のゼラチン部分などを食事に加えたり、おやつとして与えるのもおすすめです。加熱した骨は与えると危険ですので、出汁をとり切った後は捨てます。

サバ、サンマ、イワシなどの水煮缶は、手軽ですがとても優秀なお助け食材です。しかも、とても喜んで食べてくれることが多いです。DHAやEPAなどのオメガ3系の必須脂肪酸を多く含むためシニアには特におすすめですが、缶詰は水煮缶を選ぶのが一番です。オイル漬けは、サラダ油やコーン油、キャノーラ油、大豆油などを使用している場合が多いため、オメガ6系の脂肪酸が多くなって脂肪酸バランスが悪化するのに加え、カロリー過多になりがちです。

市販のお肉(鶏や豚、牛など)では、皮や脂質がたっぷり付いていることも多く、そのまま与えると脂質過剰になりがちです。鶏肉の脂にはオメガ6系脂肪が多いので、皮と脂肪を半分取り除くとバランスが良くなります。ひき肉も脂身が多いものは要注意です。 

レバーや心臓肉が好きな犬猫も多いので、ゆでたものをおやつとして与えたり、食欲増進のためにも効果的です。レバーはビタミンAとリンが豊富で非常に濃い食材ですので、与えすぎると下痢などの原因となることがあります。ビタミンA過剰にならないように少量にとどめましょう。リン制限食の場合にもNGです。

飼い主さんと気軽に楽しみながら、トッピング生活を楽しんでいただきたいと思います。

[トッピングの例]

  • 親子丼用の鶏肉を一部とり分けて、フライパンで蒸し煮にする 
  • 夕食の豚しゃぶサラダのゆで豚をとり分ける 
  • 夕食のすき焼き用の牛肉をとり分けて与える(味付け前)
  • お弁当のゆで卵を余計に作っておく  
  • 朝ごはんのスクランブルエッグを余分に作って一部とり分ける 
  • 晩酌用のお刺身を一切れおすそ分け
  • サバ、サンマ、イワシの水煮缶(開けるだけ)
  • 茹でたレバーをトレーニング用オヤツに少量(とても聞き分けが良い子になる!?)

フライパンに少量の水で     酢豚の豚肉もパイナップルと
蒸し煮したイワシ        茹でてトッピングに大活躍

骨スープにオススメの鶏もみじ  ビタミン・ミネラルたっぷりの
                豚の心臓肉

キッチンゲートで待ちきれないシニア3匹

第6回シニアをサポートする栄養素と食材①タンパク質(その1)

シニアの健康をサポートする食事で大切な栄養素はたくさんありますが、もともと肉食が基本である犬猫にとって何といっても重要なのはタンパク質です。タンパク質は加齢による筋肉量の減少を予防するためにも重要ですし、内臓機能や免疫システムの維持、そしてホルモンや酵素などの生産にも大切な栄養素ですので、不足するとQOLや若々しさ、そして病気への抵抗力の維持が難しくなってきます。

シニア期には活動量・代謝ともに低下してくるために、肥満を避けるために給餌量を減らすことが一般的ですし、超高齢期では自ら食べる量もだんだん減ってきます。加えて加齢にともなう消化吸収能力の低下、さらに吸収した栄養から必須アミノ酸や必要なタンパク質を再合成する力も若い頃のようにはいきませんので、ますます「質の高い=栄養価の濃い食事」が必要になってきます。

この「栄養価の濃い食事」とは、カロリー濃度が高い食事を指すのではなく、逆に「摂取カロリーに対して必須栄養素が多く含まれる食事」の意味です。食事中の必須アミノ酸、必須脂肪酸、ビタミン・ミネラル、抗酸化物質などの健康維持に必須な栄養素が若い頃の食事に比べて相対的に濃くならないと、シニア向けに量を減らした食事では要求量が満たせなくなってくるからです。同時に、空のカロリーともいわれる、栄養価が薄く熱量のみになるような種類の炭水化物(精製された穀物など)や非必須の脂質(特に、多すぎると炎症促進作用があるオメガ6系の脂質)は相対的に減らす工夫が必要になってきます。

簡単に家庭でできる工夫としては、まず良質なタンパク源をおやつやトッピングとして食事に加える方法があげられます。『量』だけでなく、生体利用価の『質』も考慮すると、食材としては、植物性の大豆タンパクや小麦グルテン等よりも動物性のタンパク源(鶏肉、牛肉、羊肉、豚肉、魚など)がアミノ酸バランスも良く、動物にとって消化吸収しやすい食材ですのでおすすめです。また、卵は優れたアミノ酸バランスのスーパーフードです。常備している家庭も多いでしょうし、安価ですので積極的にとり入れたい食材の一つです。

市販のフードの場合には、主なタンパク源として原料に肉や魚などを使用しているものが望ましいのですが、乾量ベースでのタンパク質は最低でも20%以上、できれば30%以上が理想的です。ウエット(缶)はタンパク質が多めのフードが多いですし、食事中に自然に含まれる水分も理想的ですので、予算が許せば選択してもよいでしょう。シニア向け、とくにその中でもシニアの体重管理用のフードにはタンパク質が低めのフードもありますが、フードを変更するのが難しい場合でも、動物性タンパク源をトッピングするだけであれば気軽に始めやすいでしょう。

次回は具体的にタンパク源としてトッピングにおすすめできる食材と、食事の用意の仕方についてお話する予定です。

【鶏手羽肉】
骨付き鶏手羽元は2通りに使えます。手羽元の肉部分はキッチンはさみで切り取って普段のごはん(我が家の場合は生で)に利用できますが、残った骨は捨てずに冷凍保存しておき、たくさんたまったら骨スープのまとめ作りに利用できます。

【食欲をそそるレバー】
写真はゆでた牛レバー。亜鉛やビタミンAが豊富で栄養価の高い食材ですが、ビタミンA過剰にならないように少量を与えます。レバーが好きな子は多いですので、トッピングの他にもおやつやトレーニングに最適です。

第5回「シニアの食事管理の目標」

医療の進化に伴いペットの寿命も以前とくらべてグッと伸びてきましたが、人間と同様に高齢化に伴う『慢性疾患』が増えてきました。日本で約30万頭の犬を対象とした調査によると、平均寿命は14.3年(体重5-10kg)、13.6年(体重10-20kg)、死因の第一位はがん、第2位は心臓疾患という結果となっており、がんは大型犬に、心疾患は小型犬に多い傾向が報告されています。また、北米で1984年〜2004年に犬種別の死因を調査した研究によれば、死因の第一位はダントツでがんでした。大型犬のバーニーズマウンテンドックやゴールデンレトリバーにおいては、死因の50%以上はがんという驚くべき結果となっています
 

がんは慢性変性疾患の代表的なもので、ヒトでは食事によって6割以上が予防可能だといった研究結果も報告されているように、長い時間をかけて蓄積される食事による影響が無視できません。また、ここ数年で分子栄養学は飛躍的な進歩を遂げており、摂取した栄養が遺伝子に働きかける機序が徐々に解明されてきました。「細胞レベル」で栄養が情報をフィードバックし、遺伝子の発現に影響を与えることが解ってきています。これらエピジェネティックスと呼ばれる研究群において栄養が果たす役割は非常に大きく、米国ではニュートリゲノミクス( Nutrigenomics)と呼ばれる分野が盛りあがりを見せています。まったく同じ遺伝子を持つ個体であっても、栄養の影響で遺伝子の発現方法が違ってくる、言い換えると、同じ病気の遺伝子を持っている子でも、食事によって実際に発病する場合としない場合があるといった考えです。さらに、このような食事の影響は世代を超えて現れ、母親の摂取した栄養によって子の遺伝子の発現方法が変化する事も解っています
 

がんに代表されるような変性・劣化による『慢性疾患』は、生活習慣病とも呼ばれるように食事の影響が大きく、長い時間をかけて徐々に発生してきます。人よりも世代交代のスピードが早いペット達においては、親から子へと代々栄養状態が情報として引き継がれ蓄積されていき、病気への抵抗力・自己治癒力の変化に影響してくるスピードも早いです。もともとは高齢で発病するはずのがんが、若年化してきていると感じている獣医師も増えているようです
 

食事は毎日の事です。元来は肉食動物である犬猫にとって『種に適した適切で自然な栄養』を与えることで、先にあげた「5つの目標」を目指すことが可能です。食事を変えることで、毛並みだけでなく目の輝きも違ってきたり、子供の頃のように活動的になってきたりと、生命力の変化も感じられるようになります。また、闘病中の動物にとっては、ベースとなる健康力を底上げすることで、治療の効果をアップすることも期待できます。次回からはシニアをサポートする栄養素と食材について順次お話ししていきます

[シニアの食事管理の目標]

  • 加齢を遅らせ、若々しさを保つ(アンチエイジング)
  • 加齢による代謝の変化を最小限にし、消化機能、内臓・循環機能、内分泌系、筋肉・関節などを健やかに保つ(健やかな体)
  • 病気への抵抗力を維持し、未病を心がける(病気にかかりにくい体)
  • 生活の質QOLを維持し生活を楽しむ(イキイキした生活)
  • 飼い主と少しでも長く一緒にいてほしい(寿命をのばす)

グリーンスムージー(小松菜とリンゴ)
 写真左:材料の例
 写真左:出来上がりの例

小松菜とリンゴグリーンスムージー(給餌例:犬2匹と1人分)

新鮮な野菜にはビタミンと抗酸化力たっぷり。グリーンスムージーにして細胞壁を壊す事で、肉食動物でも野菜がもつ自然な栄養を利用できるようになります。毎朝の習慣にして飼い主さんもペットと一緒に健康にアンチエイジング

第4回「骨スープ」の作り方

手軽に始められて、高齢期の食材として特におすすめしたいのが、家庭で簡単に作れる『骨スープ』です。骨付きの部位であれば何でもいいですが、関節を多く含む鶏手羽や鶏もみじなどが最適です。お酢を少量加え水から長時間弱火で煮込こむことで、骨と関節からのうまみとコラーゲン、ミネラルをじっくり引き出します。冷蔵庫に入れるとゲル化するのが良いスープの目安です。

高齢期に嬉しいアミノ酸各種やコラーゲンが豊富で、栄養的にも優れているのに加え、うまみもたっぷりで消化吸収もよく、飲む点滴といっても良いくらい滋養豊富なスープになります。抗炎症作用や関節などの痛みの軽減、さらに整腸作用も期待できるので、シニアの健康維持には重宝する食材です。

温かいスープの「よい匂い」に嗅覚が刺激されて、食欲がなかった動物も食べてくれることが多いですし、病中病後の回復食としてもおすすめです。私たち人間も体が弱っている時はスープやおかゆなど水分が多くお腹に優しい食事が欲しくなりますね。温めたスープを普段の食事にかけて食欲を増進しながら水分補給もできます。食事の合間におやつとして与えるのもおすすめです。なお、肉付きの骨を使った場合、長時間煮込んだ骨からはお肉が簡単に外れますので、お肉の部分は食事の材料やトッピング、おやつなどにするととても喜ばれます。加熱した骨は与えると危険ですので、出汁をとり切った後は捨てます。

<レシピ> 骨スープの作り方

材料

  • 関節を含む骨(もしくは骨付き肉) 600〜900g程度(鍋に入る量で)
    ※鶏手羽先、手羽元、鶏一羽、鶏ガラ、鶏もみじ、豚ゲンコツ、牛骨、魚あらなど
  • 水(できれば浄水) 2〜3L程度(骨が浸るくらい)
  • 酢(リンゴ酢がおすすめ)大さじ1〜2杯
  • 塩(精製塩よりも自然塩がよい) 小さじ4分の1杯

作り方

  1. 骨や骨つき肉を流水で洗い、鍋へ入れる
  2. 酢、塩を加え、材料がかぶるくらいまで水を加える
  3. 水から中火で煮て、沸騰したらアクをすくう
  4. 蓋をしてごく弱火で煮出す。脂が多すぎる場合にはすくって捨ててもよい
  5. 骨に肉が付いている場合は、1〜2時間したら骨から簡単に外れるので取り外して別に保存する。肉をとり除いた骨を鍋に戻し、弱火でさらに2〜3時間以上加熱。使い始めた後も引き続き加熱してよい(長時間煮るほど良いだしが出る)


【応用1】
スロークッカーがあれば、スイッチを入れて半日ほど(6〜12時間)放っておけばいいスープができるので簡単。夜スイッチを入れておけば、翌朝には出来あがっている。


【応用2】
真空保温調理器具を使えば光熱費の節約に。沸騰したらアクをとり、弱火で20〜30分ほど加熱してから保温器に入れる。数時間ごとに再沸騰(約10分程度)を何度かくり返し保温機に戻す。翌日にはよいスープの出来上がり。腐敗を防ぐため、冷蔵・冷凍保存する前には再沸騰する。

骨スープ (材料例)
我が家では手羽元の肉部分をキッチンはさみで切り取って普段のごはん(この場合は生食)に利用していますが、残った骨は捨てずに冷凍保存しておき、たまったら骨スープをまとめ作りします。

鶏の骨スープ
長時間じっくり煮込んだスープは関節部分がとろとろに溶け出して白濁した濃厚なスープに! 作っている間はキッチンに良いにおいが漂い、動物たちが集まります。冷蔵庫で保存した食事はそのまま出すと冷たいので、熱いスープをかけてほんのり温かくおいしい食事に用意します。

第3回「食欲低下と体重減少への対応」

高齢期の初期では、まだまだ食欲旺盛で体重管理に注意が必要な場合もありますが、年齢をかさねるにつれて内臓機能や体全体の機能の低下、年齢による慢性的な問題(炎症、痛み、不快感、倦怠感)、便秘や下痢などの胃腸の不調などから徐々に食欲不振になってしまうことがあります。

また、感覚器官の老化も始まりますので、嗅覚が衰えてくると食事の匂いに反応しづらくなり食欲が低下したり、堅いものや水分量の少ないものは飲み込みづらく、食べにくくなったりします。加えて消化吸収能力が低下してくるにつれ、量が同じでも体内で利用できる栄養量は少なくなります。超高齢期の体重減少を早めに予防することは、筋肉量の低下を予防しQOL維持にも繋がります。高齢期こそ、楽しくおいしく食事ができる工夫が家庭で必要になってきます。

水分もとても大切なポイントです。体水分量は若さと比例する傾向があり、人間では、若年期70%、成人期60%、高齢期50%などと言われていますが、動物も年齢を重ねるにつれて体内の水分量が徐々に減少していきます。水分は栄養素として過小評価されがちですが、生理機能がスムーズに働くためには何よりも必要な栄養素です。栄養素を体のすみずみまで循環させるためにも、老廃物を回収して排泄するためにも水は不可欠ですし、断食しても一週間ほどは生きのびる事ができるかもしれませんが、水分を断ってしまうと数日で危機的状況に陥ってしまいます。また、老齢になると体の水分要求シグナルを感じにくくなり、自分から進んで水を飲む量が減少するため脱水傾向になります。

自然界では肉食動物が本来主食とする獲物(肉類)には水分が70%ほど含まれるため、水を意識してがぶがぶ飲まなくとも水分は自然に摂取できています。ペット達にとっても、生理的に負担が少ない摂取方法は、食事に自然に含まれる水分なのです。ドライフードは水分量10%以下ですので、食事の直後には一時的な脱水症状に陥りやすく、かつ飲水量が追いつかない場合には、慢性的な脱水傾向になっている心配があります。そのため、食欲を増進しつつ、潤いのある若々しい体と生理機能をキープするためにも、高齢動物には水分量が多く消化吸収のよい食事が望ましいのです。

ドライフードよりはウェットフードや、良質のタンパク源を使った手作り食が生理的にも理想ですし、嗜好性も高くなります。また、良質で消化吸収のよいタンパク質が豊富なローフード(生食)もおすすめです。ただし、抵抗力が極端に落ちて消化機能も低下している動物の場合、生肉は避けた方がよい場合があります。

シニアの水分補給と食欲増進のために、食材として特におすすめしたいのが、家庭で簡単に作れる『骨スープ』です。次回のコラムで詳しくお話します。

[ポイント]

  • 食事中の水分量を増やす
  • 温めて魅力的な匂いの食事にする(冷たいままだと匂いがしない)
  • 食欲をそそる食材をトッピングする(レバーやグリーントライプなど)
  • 消化吸収しやすいタンパク質を多く含む食事
  • オメガ3脂肪酸など良質の脂質を取り入れて栄養とカロリーをグレードアップ
  • 食欲がない場合や一度に食べられない場合は、一回の食事量を減らして与える頻度を増やす

秘密兵器のグリーントライプ

人間には臭〜い!でも動物にとってはたまりません。缶をあけるとすぐに期待の熱いまなざしでみんな集合。手前の3匹の平均年齢は14歳半。

食欲をそそるレバー

写真はゆでた牛レバー。ビタミンAが豊富なため過剰にならないように少量与えます。レバーが好きな動物は多く、おやつやトレーニングにも最適です。

第2回「シニアの食事管理と肥満予防」

高齢期のカロリー要求量は一般的に20〜30%ほど低下すると言われています。加齢にともない徐々に活動量が低下してくるのに伴い筋肉量も低下し、代謝エネルギー量が減ってきます。超高齢期になると食欲低下・体重減少の問題も出てきますが、若いシニアの場合は食欲がまだまだ衰えないことが多く、維持期と同じ食事量では肥満になりがちです。

ただ、活動量や代謝には個体差があり、「10歳をすぎても活発で3歳の時と同じ食事で体重も変わらない」という子もいるので、体重が増加しないのであれば食事はあえて減らさず、逆に加齢に伴って億劫になりがちな運動を飼い主が励ましながら一緒に楽しむことで、意識的に活動量を低下させない努力をし、筋力を維持することで、食事もこれまで通りモリモリ食べられることがアンチエイジングにつながります。高齢犬の食事管理は、理論的なカロリー計算よりも、個体別にボディコンディションスコア(BCS)や筋肉コンディションスコア(MCS)を見ながら調整するのが理想的です。

一方、病気を予防して寿命をのばし、QOLの維持に最も有効な対策は『肥満にならないこと』と言っても過言ではありません。米国では犬の5割は肥満ともいわれ、ビア樽型の犬を良く見かけますが、人と同様に肥満になると心臓や関節への負担がかかり、炎症作用を促進し、糖尿病などの病気のリスクも増加します。減量するよりも肥満を予防するほうがずっと簡単です。特にシニアにとって、必要な栄養を吸収しつつ減量することは、若い時に比べてずっと困難になります。食事量(カロリー)を減らすと、必然的に食事に含まれるタンパク質等の栄養量も減ることになり、かつ加齢による消化吸収の低下も加わることで栄養不足を引き起こし、減量の度に体内アミノ酸の貯蔵量が減ってしまうなど、さらに加齢を加速することになりかねません。できる限り肥満は予防し、維持期よりも消化しやすく栄養価の高い食事を心がける必要があります。量は調整しても、食事の質は落とさないが望ましいのです。

基本肉食動物である犬猫にとって一番重要なマクロ栄養素はなんといってもタンパク質。筋骨量を保ち、体内アミノ酸の貯蔵量を維持し、病気への抵抗力を下げないためにも、必須アミノ酸をバランスよく含み、消化吸収が良い動物性タンパク質で摂取量と吸収率を底上げする必要があります。カロリーを抑えながら必要な栄養摂取を減らさないためには、相対的に食事中の栄養価(必須アミノ酸、必須脂肪酸、ビタミン、ミネラル等)は濃くならざるを得ません。同時に、エンプティーカロリーと言われるような、カロリーだけで栄養価の低い炭水化物(精製穀類や糖分)や必須脂肪酸以外の質の低い脂質は減らす工夫が必要です。

具体的な食事や食材については、今後のコラムでお話していく予定です。

14歳でもまだまだ食欲旺盛! 卵とカボチャが大好きな女の子(上)と肉食系男子(下)。毎日の散歩と栄養価の高い手作り食で筋肉質な理想体型を維持しています!

今日のごはん!
鶏もも肉(生)、牛じん臓(ゆで)、野菜ピューレ(ニンジン、ブロッコリー、セロリ、ビーツ)+カルシウム(鶏骨を柔らかくなるまで煮てつぶしたもの)。これにオメガ3とビタミンEのカプセルを加えます。

第1回「シニアに必要な食事の質」

加齢は人間も犬も生きている限り避けられませんが、食事を工夫することで加齢の影響を遅らせ、QOLを維持し元気な生活を末永く送ることが可能です。

高齢になると運動量や代謝が落ちてくるため、ある年齢からはシニア食として『低カロリーの食事』を勧められる事も多いですが、必要エネルギー量は個体によって大きく差がありますし、シニアと呼ばれる年齢を超えてもまだまだ活発で代謝も高く、活動量の多い元気な子も少なくありません。「○歳になったから」と自動的にシニア食にしてしまうと、栄養不足になって逆に加齢を早めてしまうこともありますので、その子の健康状態を観察して対応することが必要です。シニア食に切り替えてから痩せてきた、毛艶が悪くなった、など目に見えて変化がある時には注意が必要です。肥満は避けるべきですが、栄養不足は高齢の動物にとってダメージとなります。

加齢にともない栄養吸収能力が落ちてきますので、若い時よりも食事の質がさらに重要になってきます。ビタミン、ミネラル、抗酸化物質や、良質の脂質(オメガ3など)を意識して摂取すべきなのはもちろんですが、高齢の犬猫にとって『良質なタンパク質』の要求量は若い時よりも逆に増えてきます。市販のシニア用フードには、低カロリーにするために炭水化物と繊維質を多めにしているものもありますが、タンパク質不足にならないように注意が必要です。繊維質は多すぎると、他の栄養素の吸収を妨げる作用がありますので、消化吸収能力の落ちてくる高齢患者にはほどほどにしたいものです。

動物性の肉など、必須アミノ酸をトータルに含み、生物利用価が高く消化吸収しやすい良質なタンパク源を十分与えることが理想的です。もともと肉食動物である犬猫にとって、タンパク質は体の機能を維持するために本来とても必要な栄養素です。良質なタンパク源をしっかり食べて、さらに適度な運動を心がけることで『筋肉量を維持』していくことは、若さを維持していくこと。高齢患者の今後のQOLに大きく影響してきます。

荒木先生宅のキッチンで手作り食での朝食を準備中の様子。みんな待ちきれなくて視線が荒木先生に釘付け...。